基礎知識のモヤモヤ1−1

1 相続税の概要

  人が亡くなった時に、亡くなった人(被相続人)に残した財産(遺産)がある場合には、その遺産を取得した人(相続人又は受遺者)は相続税が課税されます。

  財産が親から子等へ移るだけなのになぜ税金がかかるのでしょうか。様々な考え方がありますが、相続税は所得税の補完機能があると言われています。

  これは被相続人が、生前において年末調整や確定申告において受けた非課税制度や税額控除などの様々な税制上の特典、その他による負担の軽減などにより、支払わなくてよくなった税金部分が生じ、その分お金が手元に残ります。つまりは所得税において課税できなかった部分も課税の対象として、相続開始の時点で清算し、相続税を課税しようとするものであるということです。

 

@    課税方法

  現在日本の相続税は、遺産取得者間の税負担の公平という観点から遺産取得課税方式をメインとして、税額の計算に一部、遺産課税方式が取り込まれています。

 

  • 遺産取得課税方式・・・各相続人等が、相続により取得した遺産額に応じて課税する方法
  • 遺産課税方式・・・被相続人の遺産総額に応じて課税する方法

 

A    相続人の範囲、相続順位

  相続人は誰でもなれる訳ではありません。基本的に家系図にのってくる人と考えていいのですが、相続人になれる順位が、民法で定められており、配偶者は、常に相続人に該当し、それ以外の人は次の様にその順位が定められております。

 

  • 第一順位  (代襲相続人(孫、ひ孫など)を含む)
  • 第二順位 直系尊属 (父母、祖父母など)
  • 第三順位 兄弟姉妹 (甥、姪を含む)

 

 

なお代襲相続とは、被相続人の死亡より先に、その相続人が死亡している場合(以前死亡)又は相続の欠格、排除になっている場合には、その相続人の直系卑属(孫、ひ孫など)が代わりに相続することを言います。なお、相続を放棄した場合には、代襲はできません。

 孫が相続する場合は『代襲』、孫も以前死亡している場合は、ひ孫が相続することとなり、これを『再代襲』と言います。

兄弟姉妹が以前死亡している場合の代襲相続は、代襲(甥、姪)までで、再代襲は認められていません。 

 

B    遺産の取得方法

  相続により財産を取得する方法としては、相続人間の遺産分割協議の末に遺産を取得する(相続)方法と、遺言により財産を取得する(遺贈)方法があります。

 

  • 相続により財産を取得した人・・・相続人(包括受遺者を除く)
  • 遺贈により財産を取得した人・・・受遺者

 

 ・ 包括遺贈

   遺産の全部あるいは何分の何というように割合を示してあるもの 

この場合に包括遺贈により遺産を取得した人を包括受遺者といいます。

この包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する、と民法に規定されています。したがって相続の承認、放棄及び遺産分割などの規定がそのまま適用されます。しかし代襲相続、遺留分その他相続人であることを要件とする規定は適用されません。

 

 ・ 特定遺贈

   包括遺贈以外のもの 

例えば不動産の全部と有価証券の半分というような、遺言で財産を指定しているものなどをいいます。

ただし、遺贈は、被相続人の兄弟姉妹以外の相続人の遺留分に関する規定に違反することはできません。

例えば遺言により愛人に全ての財産を譲ると書いてあっても、配偶者と子供は、遺留分権を有していることから、遺留分減殺請求により最大で遺産総額の半分の財産の取得が、保障されています

 

C    相続の承認及び放棄

  相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない、と民法に規定されていますが、相続人は、単純承認、限定承認又は相続の放棄をする権利が与えられています。

なおその相続人が、相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、単純若しくは、限定の承認又は放棄をしなければなりません。

 

  • 単純承認・・・無限に被相続人の権利義務を承継する意思表示
  • 限定承認・・・相続により取得した財産を限度として被相続人の債務などの義務を承継する意思表示
  • 相続の放棄・・・初めから相続人にならなかったこととする意思表示

 

D    相続分、法定相続分

  相続の開始があった場合に、被相続人の遺産は、相続人のものになります。相続人が一人であれば、その遺産の全てが相続人のものになりますが、相続人が複数いる場合には、相続人が共同で相続したものと考えられます。

  その後、遺産が分割されれば、各相続人等にその遺産の権利義務が承継されます。その分割の割合を『相続分』といいます。

また分割されないまま(未分割)でいる場合には、民法で定められた相続分により遺産が分割されたものと考えて、相続税の計算を行います。この分割の割合を『法定相続分』といいます。

  この法定相続分は次の様に規定されています。

 

  • 配偶者と子が相続人となる場合・・・配偶者と子はそれぞれ二分の一ずつ
  • 配偶者と直系尊属(父母、祖父母など)が相続人となる場合・・・配偶者は、三分の二直系尊属は、三分の一
  • 配偶者と兄弟姉妹が相続人となる場合・・配偶者は、四分の三兄弟姉妹は四分の一

 

なお、子、直系尊属、兄弟姉妹が複数人いる場合には、各人の相続分は、上記の相続分をその人数で頭割りした割合となります。

 

 

基礎知識のモヤモヤ1−2

E 納税義務者

相続により財産を取得した人全員が、必ず相続税の納税義務が生じる訳ではありません。相続税法では、納税義務者を相続人又は受遺者の住んでいる場所、国籍により、次の様に定めています。

 

  • 居住無制限納税義務者→相続又は遺贈により財産を取得した時に、日本に住んでいる
  • 非居住無制限納税義務者→相続又は遺贈により財産を取得した時に、外国に住んでいて、国籍が日本の人
    ただし相続開始の日前の5年間に、財産を取得した人又は被相続人が、日本に住んでいた場合に限ります。
  • 制限納税義務者→相続又は遺贈により財産を取得した時に、外国に住んでいて国籍が外国の人
    ただし非居住無制限納税義務者に該当する人を除きます。
  • 特定納税義務者相続又は遺贈により財産を取得しなかった人で、被相続人から相続時精算課税の適用を受ける財産(相続時精算課税適用財産)を取得した人

 

F 相続時精算課税制度

 ・内容

相続時精算課税は、従来の暦年単位で課税される『暦年課税』とは別に設けられた規定で、贈与時にはいったんこの規定による贈与税を納付し、その後その贈与者の相続が開始した場合に、その遺産の価額の合計額にこの相続時精算課税適用財産の価額の合計額を加算した金額をもって、相続税の計算を行い、その相続税額からすでに納付した贈与税額を控除した金額を納付する(贈与税額が、相続税額を超える場合にはその金額が還付されます。)ものを言います。

 

  • (遺産の価額 + 相続時精算課税適用財産)×税率 − 贈与税額 = 相続税額

 

 ・適用要件

相続時精算課税の規定は、誰でも受けられる訳ではありません。

次の要件を満たした場合にのみ適用されます。

 

  • 受贈者(相続時精算課税適用者)→贈与者の推定相続人である直系卑属のうち、贈与を受けた年の1月1日において20歳以上である人
    →贈与を受けた財産に係る贈与税の申告期間内に贈与者ごとに相続時精算課税選択届出書』を納税地の所轄税務署長に提出したこと。

    推定相続人とは、現状のままで相続が開始された場合に相続人となるはずの者
  • 贈与者(特定贈与者)→贈与をした年の1月1日において65歳以上である人

 

なお、この規定は、適用が開始された年以後は継続適用され、相続時精算課税の適用を止めることはできず暦年課税により贈与税が課税されることはありません

 

 

 ・計算方法

前述の通り、贈与時に一度贈与税を計算し、その後相続税を計算するという仕組みになっています。贈与税の計算は特殊なものになっております。

 贈与税の計算

 

  • 特定贈与者ごとの相続時精算課税に係る贈与税の課税価格からそれぞれ次に掲げる金額のうちいずれか低い金額を控除する
    2,500万円(既に控除した金額がある場合には、その金額の合計額を控除した残額)
    特定贈与者ごとの贈与税の課税価格
  • 税率 20%
    (特定贈与者ごとの贈与税の課税価格−)×20%

 

 

相続税の計算

  • 居住無制限納税義務者・非居住無制限納税義務者・制限納税義務者→相続時精算課税適用者が、特定贈与者の相続に際し、相続又は遺贈により財産を取得した時、相続時精算課税適用財産については、相続税の課税価格に加算されます。
  • 特定納税義務者→相続時精算課税適用者が、特定贈与者の相続に際し、相続又は遺贈により財産を取得しなかった時、相続時精算課税適用財産については、相続又は遺贈により取得したものとみなされます

 

  • 贈与税額控除→贈与時に課せられた贈与税相当額は、相続税額から控除されます。なお、相続税額から控除しきれない贈与税相当額については、還付を受けることができます。


G 課税財産

 ・相続財産

相続の開始があった場合には、相続人は、被相続人の一身に専属したものを除いて、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。

※一身に専属したものとは、例えば税理士資格や医師免許等をいい、相続できません。

 

 ・本来の相続財産

被相続人が、亡くなったその時に現に持っている財産で相続又は遺贈により取得する財産をいいます。

この場合の財産とは、現金、預貯金、有価証券、宝石、土地、家屋などのほか貸付金、特許権、借地権など目に見えなくてもお金に換えることができる経済的価値のあるすべてのものをいいます。

 

 ・みなし相続財産

被相続人が、亡くなったその時には持っていないが、被相続人の死亡に起因してもらえるものなどで、法律的には相続又は遺贈により取得したものではないですが、実質的には相続又は遺贈により取得したものとみなすものをいいます。

この場合の財産は、生命保険金等や退職手当金等などの財産を言います。

 

 ・非課税財産

相続又は遺贈により取得した財産(みなし相続財産も含む)のうち、社会政策的見地あるいは国民感情の面から、課税財産に含まれないものを相続税の非課税財産といいます。

この非課税財産は、例えば墓地墓石仏壇仏具神を祭る道具など日常礼拝をしている物や生命保険金等又は退職手当金等のうち一定の金額があり、相続税法や租税特別措置法において限定列挙されています。

 

 ・課税財産

相続又は遺贈により取得した財産のうち、非課税財産を除いた次のものをいいます。

 

  • 居住無制限納税義務者非居住無制限納税義務者、日本住所の特定納税義務者→その取得した財産の所在場所に関わらず、その全ての財産
  • 制限納税義務者、外国住所の特定納税義務者→その取得した財産が、日本国内に所在するものに限られ、外国に所在する財産(在外財産)は、課税財産に含まれないため、納税義務は生じません。